先日、60代の男性からこんな相談を受けました。「父が認知症と診断されて半年。空き家になっている実家を売却したいのですが、父名義のままでは売れないと聞きました。どうすればいいのでしょうか」。このようなご相談は、群馬県高崎市でも年々増加しています。親が認知症になってからでは、実家の売却は極めて困難になります。しかし、事前に適切な対策を講じておけば、スムーズに売却できる道が開けます。
私は建築士・宅建士・FPの3資格を持ち、25年間この業界で数多くの相続案件に携わってきました。その経験から断言できるのは、認知症による実家売却問題は事前準備が全てだということです。特に家族信託という仕組みは、多くのご家族を救ってきた有効な手段です。
本記事では、認知症の親を持つご家族が実家売却で直面する課題と、家族信託を中心とした具体的な解決策を、現場で見てきた実例とともにお伝えします。
認知症になると親名義の実家は売却できない
不動産の売買契約には、売主本人の明確な意思表示が法律上必要です。認知症が進行し判断能力が失われると、たとえ実の子どもであっても、親名義の不動産を勝手に売却することはできません。これは民法の基本原則であり、例外はありません。
実際に高崎市内で起きた事例では、認知症の母親名義の実家を売却しようとした息子さんが、契約直前に不動産会社から「お母様の意思確認ができないため契約できません」と断られました。買主も既に決まっていたため、違約金として50万円を支払う事態になってしまったのです。
認知症と診断された時点で、その方の法律行為能力は制限されます。軽度認知障害の段階であれば契約できる場合もありますが、医師の診断書や公証人の判断によって左右されるため、非常にリスクが高いのが現実です。現場の感覚では、認知症と診断された時点で売却の道は8割方閉ざされると考えておくべきでしょう。
成年後見制度では実家売却が困難な理由
認知症になった後の対策として成年後見制度がありますが、実家売却という目的には必ずしも適していません。成年後見人は本人の財産を守ることが最優先の使命であり、不動産の売却には家庭裁判所の許可が必要になります。
許可が下りるのは、本人の生活費や医療費が不足している場合など、売却が本人の利益になると明確に証明できるケースに限られます。相続税対策や空き家管理の負担軽減といった家族側の理由では、ほぼ認められません。実際に群馬県内のある事例では、申立てから許可まで8ヶ月かかり、その間に買主候補が離れてしまったケースもありました。
さらに成年後見制度は一度開始すると、本人が亡くなるまで続きます。後見人への報酬は月額2万円から6万円程度が相場で、仮に10年続けば総額240万円から720万円のコストが発生します。実家売却だけを目的とするには、あまりに負担が大きい制度と言わざるを得ません。
家族信託が認知症対策として有効な理由
家族信託とは、財産の所有者が元気なうちに、信頼できる家族に財産の管理処分権限を託す仕組みです。親が委託者、子が受託者となり、親が認知症になった後も子の判断で不動産を売却できる点が最大の特徴です。
所有権は形式的に受託者に移りますが、売却代金などの利益を受け取るのは委託者である親のままです。つまり親の財産は守られつつ、柔軟な資産活用が可能になります。成年後見制度と異なり、家庭裁判所の許可は不要で、信託契約の範囲内であれば受託者の判断で速やかに売却手続きを進められます。
代表が担当した高崎市内の事例では、70代の父親が軽度認知障害と診断される前に家族信託を設定しました。その2年後、父親の症状が進行し施設入所が必要になった際、長男が受託者として実家を売却し、売却代金2300万円を父親の介護費用に充てることができました。もし家族信託がなければ、成年後見の申立てから始める必要があり、タイムリーな対応は不可能だったでしょう。
家族信託を設定する具体的な手順と費用
家族信託の設定には、まず専門家による家族構成や財産状況のヒアリングから始まります。次に信託契約書の作成、公証役場での公正証書化、そして不動産の信託登記という流れになります。全体で準備開始から完了まで1ヶ月から2ヶ月が標準的な期間です。
費用面では、専門家への報酬が30万円から50万円程度、公正証書作成費用が3万円から5万円、信託登記の登録免許税が固定資産税評価額の0.4%です。仮に評価額2000万円の実家であれば、登録免許税は8万円となり、総額で45万円から65万円程度が目安になります。
一見高額に感じるかもしれませんが、成年後見制度で10年間後見人報酬を支払い続けることを考えれば、家族信託は初期投資のみで済む合理的な選択です。専門家として現場で見てきた感覚では、財産規模が1000万円を超える場合は、家族信託を検討する価値が十分にあると言えます。
家族信託設定時に注意すべき3つのポイント
家族信託を成功させるには、いくつかの重要な注意点があります。第一に、親本人に判断能力がある段階で設定する必要があります。既に認知症が進行している場合、信託契約自体が無効になるリスクがあるため、早めの相談が不可欠です。
第二に、受託者の選定は慎重に行うべきです。不動産の管理処分という重い責任を担う立場ですから、家族間で十分に話し合い、信頼できる人物を選ぶ必要があります。実際に高崎市内であった事例では、長男を受託者にしたことで次男との間に不信感が生まれ、家族関係が悪化してしまったケースもありました。事前の合意形成が何より大切です。
第三に、信託契約の内容設計です。単に実家の売却だけでなく、賃貸活用や建て替えなど、将来起こりうる様々な選択肢を想定して権限を定めておくべきです。経験豊富な代表に相談することで、個々の家族状況に合わせた最適な設計が可能になります。
家族信託以外の選択肢と比較検討
家族信託が万能というわけではなく、状況によっては他の方法が適している場合もあります。たとえば親がまだ健康で判断能力に問題がなければ、生前贈与で子に名義変更してしまう方法もあります。ただし贈与税が発生する可能性があり、評価額2000万円の不動産であれば税額は数百万円に達することもあります。
任意後見契約という選択肢もあります。親が元気なうちに、将来認知症になった際の後見人を契約で決めておく制度です。家族を後見人に指定できるため報酬負担は抑えられますが、実家売却時には法定後見と同様に家庭裁判所の許可が必要になる点は変わりません。
それぞれの制度には一長一短があり、親の年齢、健康状態、財産構成、家族関係などを総合的に判断する必要があります。専門家として25年間現場を見てきた経験から言えば、実家売却の柔軟性を確保したいのであれば、やはり家族信託が最も有効な手段だと考えています。
まとめ|認知症になる前の準備が実家売却を可能にする
認知症の親の実家売却は、事前の準備がなければほぼ不可能です。成年後見制度では家庭裁判所の許可が必要で時間も費用もかかります。一方、家族信託は親が元気なうちに設定しておくことで、認知症になった後も柔軟に実家を売却できる仕組みです。
設定費用は総額45万円から65万円程度かかりますが、長期的な後見人報酬と比較すれば合理的な投資と言えます。ただし親に判断能力があるうちに設定する必要があり、受託者選びや契約内容の設計には専門的な知識が求められます。
株式会社ホームクエストでは、相続・空き家専門の不動産仲介として、家族信託の設定から実家の売却まで、ワンストップでサポートしています。代表は現場経験25年の専門家として、一つひとつのご家族に寄り添った最適なご提案をしています。親の認知症が心配な方、実家の将来について考え始めた方は、早めのご相談をしてください。
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